いつもご覧いただき、ありがとうございます。
今日のテーマは「いじめ」。
時には人の命を奪い、大きくニュースに取り上げられることもあります。
いじめは今も昔もありますが、これをどう無くしていくか?は、みんなの責任です。
今日は長い教員生活で感じたことや、いじめの構造、解決に向けた取り組みまで書いていきます。
根深い問題がテーマなので、かなり長くなりますが、最後まで読んでいただけるとうれしいです。
承認欲求
いじめの構造を理解するには、まず人の深層心理を少し知っておく必要があります。
今日のお話は「マズローの欲求段階説」をご理解の上、ご覧いただくとわかりやすいと思います。
詳しくはこちらを参照していただきますようお願いいたします。
高校生の心理的な特徴
特に高校生は「承認欲求」や「自己実現欲求」が高まる時期ですが、
こうした欲求が、いい形でモチベーションとなった時に、高校生は爆発的な力でこれを吸収し乗り越えようとする努力を惜しみません。
しかしこれが満たされず悪い形で表れた時、一部は「非社会的」に、また一方で「反社会的」な問題行動に走りやすいのも、高校生(思春期)特有の特徴です。
いじめは特に欲求段階説の「承認欲求」が満たされないタイプが加害者となることが多く、これは「承認されない弱い自分」を隠すための行為です。
これは私たちから見れば逆に「弱い自分」を晒す行為にしか見えません。
その意味をこれから述べていきます。
スクールカースト
スクールカーストは昔からありました。ジャイアンやスネ夫のようなタイプが1軍、しずかちゃんタイプが2軍、のび太タイプが3軍。
私の勤務校にも印象的だった生徒がいました。彼女もこれを自認して「私は陰キャの3軍だから…」と言ってた不登校傾向の生徒。彼女はクラスでは自身の存在を消すように静かでしたが、部活では楽しく、母親の前ではすごく偉そうに振る舞っていたので、そのギャップがとても印象的でした。
この子はクラスで居場所がない孤独感を、部活で晴らし、家では母親をマウントして解消していたんですね。
1軍の生徒は、男子ならサッカー部や野球部、またはダンサー志望とか…イケメン。女子にモテモテ♡
女子はちょっとケバ目で、髪サラサラかクルクル。休み時間はトイレに籠りメイク直しに必死(^^;
教師には割と反抗的ですが、友だちには優しいタイプが多かったような気がします。
スクールカーストも一種の承認欲求で、周りから「そんな目」で見られることに優越感を感じ、心を満たしているのです。
いじめは人の下に人を作る行為
承認欲求をどう満たすか?
これが悪い形で出るのが「いじめ」です。
高校生はまだまだ未熟な部分も多いので、
自分に大きな自信を持つ生徒は少ないです。
そんな自己肯定感を満たすため、ほとんどの生徒は自分を鍛え、実力で人より上に立つことを目指します。
勉強や部活・行事をがんばるのは、そのためでもあります。
しかし「いじめ」は、人を貶めることで自分が優位に立ち、承認欲求を満たす行為です。
つまり、自分の下に人を作って、カースト上位となり自己肯定感を満たすのです。
それは、暴言や暴力、または無視して困る様子を楽しんだり、ネットでの誹謗中傷を畳みかける行為など多岐に渡ります。
黒い羊効果
「黒い羊効果」とは、集団内の異質な個を排除しようとする心理のこと。
標的(黒い羊)を一つに絞って、他の白い羊全員が「自分たちの集団への帰属意識と安心感」を得るために働く心理、だと言われます。
いじめが集団で行われるケースは、このような心理が働くからです。
仮に集団で行われなくても、周囲が自分が巻き込まれないよう「見て見ぬふり」をして無関係無関心を装いますが、そんな傍観者も白い羊の一員であることに変わりはありません。
「いじめ」は「傍観者も同罪」とされるのには、こんな理由があるのです。
いじめは弱く卑怯な自分を露呈する
…以上が、私の考える「いじめ観」です。
いじめは、勉強や部活等で自分を高められなかったり、家庭や人間関係の悩みから自分が満たされない時に、その代わりに他人を貶めて承認欲求を満たそうとする行為です。
これは弱くて卑怯な人間のする行為です。
そんな卑しい行為が「恥ずかしいこと」だと気付かなければ、
いじめは絶対に無くなりません。
ほとんどの加害者は、そんな自分の心理に気が付かず、どうしていいかわからず「いじめ」に走ります。今のカーストから下位になりたくないので、必死なんです。
また大人になってもこんな心理から、無意識で人を貶めることがあります。
子どもは、そんな大人の姿も見ています。
いじめ撲滅には、大人にもその姿勢が求められることを忘れてはいけません。
正しい競争
ではいじめとは違う「正しい競争」は何でしょう。
それは学習や部活動、行事等で正々堂々と競うことです。
正しい競争は、共通のルールがあり、フェアプレーで競い合えるものです。
テストでのカンニングや、スポーツの世界でドーピングが厳しく罰せられるのは、どちらも「アンフェア」な行為だからです。
進学校でいじめが少ないのは?
また進学校にいじめが少ないのは、これが理由です。
つまり進学校の生徒は、学力的には上位にいるため、その点で承認欲求が満たされた生徒だからです。
自分の承認欲求が満たされた生徒は、より高次の欲求「自己実現欲求」を目指すため、「いじめ」という手法でカースト下位を作る必要がなく、結果的にいじめは少なくなります。
マズローによると、「人は低次の欲求が満たされないと、それよりも高次の欲求を欲しない」とも言っています。このことから、進学校の生徒にはより高次の欲求を求める傾向があり、いじめが起こりにくくなるのです。
ただ進学校で落ちこぼれた生徒は、集団内で成績下位カーストとなり自信を失います。進学校にはこれをイジる生徒もいますが、自信を失った生徒は不登校傾向となることが多く、集団から自分を切り離そうとします。代わりに家庭では保護者や下の兄弟に当たって一時的な優越感を味わい自分を守るのです。
そう考えると、いじめも不登校も、根っこは同じようなところにあるようにも感じますね。
それほど、承認欲求は「人の人生を左右するほど」大きなものなのです。
いじめに遭っている人へ
いま、いじめに遭って辛い思いをしている人へ。
いじめとは先に書いたように「弱い人間のする卑怯な行為」です。
あなたは、いま心折れそうな逆境の中、それに耐え、前を向いています。
それだけでも、いじめている弱い連中なんかより、強い人間だと思います。
「人間万事塞翁が馬」と言いますからね。
そして世は「諸行無常」でもあるのです。
あなたは必ず幸せになりますから、心配はご無用。絶対に大丈夫ですよ。
でも本当に辛くて苦しい時は、一人で抱え込むのは止めてください。
友だちや家族、先生やカウンセラーなど、あなたの話を聞いてくれて、寄り添ってくれる人は必ず存在します。知った人に言いにくければ、電話相談やネット上にも手を差し伸べてくれる人は必ずいます。
「捨てる神あれば救う神あり」という言葉もあります。
相談窓口は下のリンクを参考にしてください。
また学校では、次のクラス編成時に可能な範囲でクラスを別けてくれる…等の配慮を行うのが通常です。文理等の類型や選択で不可能なケースもありますが、そんな場合も、日頃の様子を注意深く観察する等の配慮をされるので、心配しなくても大丈夫ですよ。
いじめを無くすために
いじめをさせない環境づくり
いじめを防止するために2013年に公布されたいじめ防止対策推進法は、いじめの定義を明確にし、より強い対処法を法律で規定した画期的な法律です。
ですが、現実は法律があるから…といって、いじめが無くなることはありません。
今もどこかで散発的に起こっているのが現状です。
私は教師・生徒ともに、いじめへの問題意識を持つなら、まず、いじめをさせない環境づくりを整えることを最優先にしなければいけないと思っています。
いじめをさせない環境とは
いじめは「承認欲求」が満たされないことがその根底にあります。
だから、いじめをさせない環境とは、生徒全員の「承認欲求」が満たされる環境です。
これを具現化した授業手法がアクティブラーニングとも称される「能動的な学習」です。
さらにICT(Information and Communication Technology)を使った教育も近年の流れですが、
ITと違う点として、真ん中にCommunicationが入ることが、人同士の交流を促進させ、互いにリスペクトできる人間関係の構築をねらいとした手法である、という意味にもなります。
褒めて伸ばす
しかしこのような教育環境の整備は、補助的なものに過ぎません。
現場でいて最も効果的だと思う環境整備は、日頃から教員が生徒を認め信頼することで生まれる「安心感」が根底になければならないと思います。
「褒めて伸ばす」と言いますが、これを担任はじめ関わる先生方が、生徒の良い点を見つけ、これを認めてやれる集団をつくることです。 誰かが褒められると、生徒は自分も褒めて欲しいと思います。
これを見逃さない先生に恵まれると、そのクラスはいい集団に成長していきます。
生徒のいいところを発見し認めてくれる先生は、生徒の承認欲求を自然に満たしてあげてることになるんですね。
生徒の中には「面と向かって褒められるのが恥ずかしい」とか「ウソ臭い」と言う子もいます。
そんな子もいるので、私は生徒の側で、聞こえる程度の小声で独り言を言ってました。
「これいいな~」とか、
「(生徒の名前)って、力あるな~」
「今日はきれいに掃除できてるな~」
とか、独り言のように呟いて、実は生徒に聞こえるように言うんですね。
この褒め方、結構効き目ありましたよ(^^;)
生徒同士で
そしてこの「褒め合い」を生徒同士でできるようにしていくんですね。
これはスポーツで「ナイスプレー!」と声かけするのと同じ効果があります。
これはグループ学習や、行事等でできるように持っていきます。
「(生徒の名前)に、みんな拍手!」
とか言って、最初は誘導してあげます。
そのうち、生徒同士で「ありがとう」とか「すごいね」というやりとりが自然と発生してきます。
集団がこんな空気感になったら、いじめが発生することはまずありません。
それでもいじめが起こったら
教員として
残念ながら、それでも「いじめは起こるもの」という前提で考える必要があります。
いじめ対応の難しいところは、表面化するまでは水面下で行われること。
特にネット上での誹謗中傷は、身近な人でも気付かないまま進行し、
表面化した時は、かなり深刻な状況になっていることも多いのです。
まず、日頃から生徒の様子に敏感であることはもちろん、
面談やアンケートの機会を定期的に設け、休み時間や掃除中に、生徒の会話をよく聞いていることです。
「おかしいぞ!?」と思ったら、躊躇せず当事者に話しかけることが必要です。
特に被害者かな?と思われる生徒には、他の生徒が見ていないところで「気になる旨」と「相談はいつでもどこ(保健室等)でも受け付ける旨」を伝えておきます。
生徒はいじめられていても、教師には隠すものですが、しっかりとした信頼関係が築けていれば、これだけでも安心できる材料になります。
また実際にいじめ事案が表に出た時は、
- 常に被害者の立場に立って思いを聞いてやること
- いじめは被害者の受け取り方が唯一の定義(冗談や遊びのつもり、が通用しない)である、と徹底すること
- またいじめは「被害者にも非がある」と言われることもあるが、それがいじめ行為を許容する理由にはならないことをしっかり伝える
- ゆえに加害者には、どんな理由があってもいじめは絶対に許されない行為だ、ということを徹底すること
- その一方で、加害者の満たされない承認欲求をどう満たしてやるか?を一緒に考えてやること
- 保護者同士のトラブルにも発展することがあるので、学校と保護者との連絡を密にすること
- 生徒指導や保健室、学年主任や管理職の助言も受けながら指導に当たること(教師一人で抱え込まない)
近年はいじめや犯罪に「厳罰化」を求める世論の風潮があります。
いじめ加害者も、ひどい時はネットリンチのように袋叩きになるケースもありますが、
私は厳罰化だけでいじめが無くなる、とは思いません。
「厳罰化を求める声」というのは、言いたいことを言うだけ言っておいて結局は無責任な声だと思うからです。言うだけなら誰でも言えますが、それだけでは根本的な解決には至らないのです。
私の過去記事も参照していただければ幸いです。
生徒として
同じ生徒として、いじめられることはもちろん、近くでいじめが起こっていることも、辛いはずです。
「何とかしたい」と思っても、周囲の同調圧力や黒い羊効果で、現実見て見ぬふりをする傍観者役が精一杯という人も多いのでは…と思います。
しかし、いじめは最悪「人の命」にも係わることもあり、放任はしない方がいい!
日頃から「褒め合い」や「リスペクト」、感謝の気持ちを伝える習慣など、いい集団として必要な雰囲気づくりに努めたいものです。
それでもいじめが収まらない時、できることは限られますが、自分一人で抱え込まず、誰かに相談をしてください。
一番いいのは、クラスで信頼できる友人です。立場も近く現場をよく知っている人だし、問題意識を共有するだけでも一歩前進です。
友人が無理なら、保護者や先生に相談してください。
あなたの立場を配慮しながら対応を考えてくれるはずです。
それも言いにくければ、保健室やスクールカウンセラー、
先述のまもろうよ こころ | (厚生労働省)など、いじめ当事者でなくても利用可能ですから、
頼れるところを頼って、少しでも安心の環境となるように祈念します。
まとめ
いじめは、複雑に人の心理が絡み合う難しい問題です。
誰もが「いけないこと」と理解しながら、子どものみならず、大人の社会にも起こりうる根深さが、これを物語っています。
いじめの解消や、安心安全な社会を実現するためには、
ここで書いた「人の心理」をよく理解することや、
個々が自律し自制できる人間である必要もあります。
そのために私たちは勉強を欠かしてはいけません。
これは人の命を守る、大切な「人権学習」なのです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
ではでは、、、また次回。
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